牧場生まれのこだわりジェラート
アルプスの童話のようなかわいいパッケージが目を引く「Milly’s(ミリーズ)」のジェラート。一口食べると、爽やかでありながら濃厚な牛乳の味わいと優しい甘さが広がります。
搾りたての牛乳や県産の素材などを贅沢に使ったジェラート「Milly’s」をつくっている松本アイス工房は、玄海町にある牧場、株式会社 Hamanda Dairy Farmの中にあります。
美しい景色で有名な「浜野浦の棚田」にほど近い高台に牧場があり、海からの爽やかな風を浴びながら牛たちがのんびりと過ごしています。
時代とともに牧場の規模を拡大
松本アイス工房の責任者である松本忠久さんは酪農家として60年近く牛と共に暮らしてきました。
松本さんのお父さんが1958年に松本牧場を立ち上げ2~3頭の牛からスタート。幼い頃から牛の世話を手伝っていた松本さんが2代目を継承し、妻のつたえさんと共に牛の世話や搾乳にと励んできました。
「家で牛を飼えば必然と手伝うものだったので、将来自分も牛を飼うんだと決めていました。酪農家としてやっていけるという自信はなかったですが、研修などで牛の勉強を重ねてきました」と振り返ります。
また、国の政策として酪農が奨励されていた時代ということもあり、徐々に規模を拡大していきました。
牛を尊重した牧場経営
現在、牧場には搾乳牛が約120頭いて、仔牛もあわせると約160頭となり、日々美味しい牛乳を私たちに分けてくれています。
当初は浜野浦の棚田の近くにある自宅の隣に牛舎を構えていましたが、民家の中での多頭飼いは難しさがあり、10頭を超えたのを機に広い場所を求めて牛舎を移転。それが現在の海を見下ろせる高台でした。
「ホルスタインが生まれた北欧は寒い地域です。九州は暖かい地域なので、夏を少しでも快適に過ごせるかが重要なんです。ここからなら海が見えて、夏でも風がよく通ります。自然のものを感じてくれた方が良いと思い、ここに牛舎を移しました」と優しく牛たちを見守ります。
さらに飼育方法も各牛をつないで飼う「スタンチョン」から自由に動き回れる「フリーバーン」に変更したことで牛の健康も改善。
「スタンチョンだと同じところで寝て起きるだけですが、今は好きなように動いて餌も食べたいだけ食べられる環境です。それによって足が健康になりストレスが減って、病気も減りました。さらに発情の兆候を見逃さないことが酪農経営には重要なのですが、見つけやすくなりましたね」と牛の健康にもつながっています。
また、仔牛は北海道に預託牛として1年程度預けて広い大地で育成をし、適齢になると再び玄海町に戻します。愛情を込めて大切に育てた牛から1日2回、朝の5時と夕方の16時に搾乳を行っているそうです。
65歳を迎えた2015年、松本さんは牛への想いと共に牧場経営を長男の浩文さんに託しました。
新たなチャレンジ!松本アイス工房の誕生
事業承継後に、アイス事業を始めた松本さん。
「せっかく代表を交代したのだから今までやったことのない加工業をやってみようと思い立ちました。私は牛飼いですから牛乳を使ったものを始めようとアイスクリームに挑戦しました。」
とはいえ初めてのアイスクリーム製造や販売は苦労の連続でした。ですが、自慢の牛乳を使っての製造に妥協せずチャレンジを繰り返し、その結果誕生したのが、牧場ならでは搾りたての牛乳の味をそのままアイスにしたジェラート。とりわけ「ミルク」は、美味しさが格別で、ファンも多いそうです。
「搾りたての牛乳をそのままアイスクリームとして使えるからこそ、この味が出せます。それが一番の基本です。搾ってから何日か経つだけで味がどんどん落ちていくんですね。だから”ミルク”はうちにしか出せない味なんです。それが牧場の隣にアイス工房を構えている強みじゃないですかね」と笑顔が輝きます。
搾った生乳は一番美味しい状態になるように殺菌を行い、イタリア製のジェラートマシンで凍らせた後、1個ずつ丁寧に充填していきます。
大事な牛との思い出を胸に
松本アイス工房の本格ジェラート「Milly’s」のパッケージのモデルは松本さん夫妻と1980年~1990年に飼っていた牛のミリーです。
「ミリーは松本牧場を今の形にしてくれた牛なんですよ。品評会いわゆる美牛コンテストに出たら必ず優勝する牛でした。優勝することで2代目になったばかりの私の名前や牧場のことをこの子が広めてくれました。牧場を育ててくれたミリーの名前から“ミリーズ”と名付けたんです」とミリーへの感謝の想いが込められています。
丁寧につくられた本格ジェラート
本格ジェラート「Milly’s」は全部で10種類あり、どれも手間隙をかけた贅沢な一品です。
Photo : Kouichiro Fujimoto
凍らした県産の“いちごさん”がたっぷり入った「いちご」、原材料がほぼ“いちごさん”という「いちごシャーベット」。嬉野抹茶を贅沢に使用し、まるで抹茶を飲んでいるような濃い「抹茶」。手作業で刻んだチョコチップも濃厚な「チョコ」、焼き芋を丁寧に潰して混ぜ込んだ「熟成焼きいも」など、どれも美味しさが際立ちます。
Photo : Kouichiro Fujimoto
「息子が儲けはいらないから、とにかく美味しいものを作りなよ、と言ってくれるので贅沢に素材を使用しているのが一番の持ち味ですね」と、こだわり抜いた美味しさが伝わり、大手デパートとも取引が行われています。
高級感漂うプレミアムな美味しさ
さらに2023年に誕生したワンランク上の「プレミアム」シリーズも人気を集めています。
「和三盆ミルク」は和菓子を味わっているような上品な甘さが人気。有田町の金柑を細かくカットしたものをたっぷり入れた「金柑ミルク」は爽やかな香りと味わいがフレッシュです。
Photo : Kouichiro Fujimoto
「今までのジェラートもご好評いただいていましたが、さらに素材を贅沢に使用し、パッケージも高級感を出したことで贈答用にも喜ばれています。バラエティも豊富ですので、多くの方に自慢の牛乳でつくったジェラートを味わっていただきたいですね」と松本さんは話します。
牛乳の美味しさをもっと広めたい
知名度ゼロからスタートした「松本アイス工房」ですが、今では週末ともなると県外から立ち寄る人も増えたそうです。
「せっかくここまで来ていただくので、玄海町の浜野浦の棚田を眺めながら食べていただくようお勧めしています」と松本さん。毎日牛乳を提供してくれる牛たちを今日も優しくいたわりながら、ジェラートを通して牛乳の美味しさを伝えています。
Photo : Kouichiro Fujimoto