豊かな里山エリアで アスパラガスとランチをお届け
県東の玄関口・基山町の中でも緑にあふれ、農業が盛んな園部地区。この地でアスパラガスを育てる増永さんは、「和カフェ 空とたね」のオーナーとして店も切り盛りしています。
店舗は、100年以上前からある古民家を改装。「すりガラスや柱は当時のものを残しています。懐かしい雰囲気からか、おばあちゃんの家に来たみたいと仰る方も多いんです」と増永さん。
おしゃべりしながら和やかに食事をとろうと、お友達同士やご夫婦で訪れる方がたくさんいらっしゃるそうです。
周囲の勧めに背中を押され 農家の道へ
県外から基山町に越してきたのは19年前。当時は仕事も子育ても真っ只中で、農家としての第一歩を踏み出したのは、退職を決めていた2015年のことでした。
増永さんは「近所のアスパラガス農家さんが亡くなられてハウスが空いたので、自由な時間が増えることもあり、私が受け継ごうと決めました。周りの皆さんから応援していただけたのも大きな決め手でしたね」と、当時を振り返ります。
近くには、他にもアスパラ農家の方がおり、アドバイスをもらいながら2016年4月に定植。アスパラガスは最初の植え付けから1年は収穫がないため、その1年間で栽培のノウハウが書かれた資料を読み込みつつ、「師匠」たちの助言を得ながら圃場に適した栽培のかたちを模索しました。
こうして、しっかりと育った翌年から収穫を開始。アスパラガス農家として、第2の人生をスタートさせました。
ゆっくり成長する2〜3月のアスパラガスは甘味が強く、夏場のものはサッパリとした味わい。食べ応えのある大きさとやわらかな食感が新鮮ならでは、と喜ばれています。
規格外を活用し おいしいランチメニューに
収穫を始めた最初の数年は、市場で定められたサイズや形、重さではない「規格外」と呼ばれるアスパラガスが多数育ち、ご近所から県外にまで配る日々が続いたそうです。
しかし、だんだんと配り先にも困るように。そこで増永さんは「せっかくだからこれを生かして何かできないだろうか」と一念発起。ランチを提供できる「和カフェ 空とたね」を開店しました。
店名の「空」は基山町のこと。広い基山町にいろいろな「たね」を蒔いていきたいという思いが込められています。「農業に勤しむ園部地区をしっかり残して、いろんな人に知ってほしいという気持ちも屋号に託しました」と話します。
コロナ禍をバネに 新たな道を開拓
開店後にメディアで紹介されると客足は急増。時には満席で来店をお断りするほどにたくさんのお客さんを迎えていました。
しかし、その後襲ったコロナ禍で営業が困難に。感染拡大も懸念されたので、思い切ってランチは完全予約制へ転換することを決めました。
さらに、構想中だったものの、なかなか時間がとれていなかった加工品作りも開始。
アスパラガスをはじめ、いろいろな園部の野菜を家でも手軽に食べられるよう工夫されています。味噌漬け、佃煮、混ぜ込むだけのお寿司の素・・・。バラエティ豊かなのもうれしいポイントです。
「コロナ禍は大変な事態ではありましたが、完全予約制にしたことでお客様一人一人とお話しする余裕が生まれました。ずっとやりたかった加工品作りも頑張れたので、良い機会を得たような気持ちです」と前向きに捉えられています。
新鮮な野菜ならではの瑞々しい味わい
ランチは、野菜そのものの味を味わってほしいという思いから薄めに味付け。シャキッ、パリッとした歯応えからほっくりとしたやわらかさまで、その野菜・調理法だからこその食感を楽しめるのも魅力です。
また、カフェで使っている農産物は増永さんが育てたものだけではありません。基山町園部地区の農家が集まった「そのべFarmers」の皆さんが育てたものも、たっぷり登場します。
アスパラガスはもちろん、キクイモ、里芋、マコモタケ、原木しいたけに柿、イチゴなど、園部の味覚が勢揃い。その他周辺の新鮮な農産物も集まり、お料理で味わえるのはもちろん、店舗での販売も行われています。
ランチに登場する農産物が数々並ぶので、実際に食べてみて感動したお客さんが購入するほか、野菜目当てに来店される方もいるそうです。
お茶とお菓子でほっこりカフェタイム
おいしい緑茶と手作りのお菓子をいただけるのも和カフェならではの楽しみ。手作りのお菓子には栗やそら豆など旬の農産物を使ったものも多く、やさしい甘さで芯から心を和ませます。
さらに基山町周辺のおいしい緑茶の「飲み比べ」は、同じ緑茶とは思えないほど、それぞれの個性的な味わいを堪能できると人気。爽やかで豊かな香りも魅力です。「1人ではもちろん、一緒に来た人とワイワイにぎやかに楽しめますよ」
地域の農業を守り さらなる発展を目指す
2023年6月、母校福岡女子大学に2号店をオープン。園部地区の店舗と同様、新鮮野菜をふんだんに使ったランチメニューが大人気です。毎週水曜日には、大学でも野菜の販売を行っています。
「こうして農業の豊かさや野菜のおいしさを広めていけるのは本当にうれしく、ありがたいことですね。私自身、園部の皆さんに迎え入れていただいた時からすごくお世話になったので、その恩返しをしたいんです」と増永さん。
夢は農業を起点に加工部門、カフェ部門のように派生させ、園部の農家に好循環を生み出していくこと。さらなる発展のために、まだまだ邁進し続けます。