新茶の季節がやってきました
佐賀県南西部に位置する嬉野市は、日本有数のお茶の産地です。緩やかな山に囲まれた盆地で、霧が深く昼夜の温度差があるため、茶の栽培に適しています。
3月の下旬を過ぎる頃、辺り一帯は鮮やかな緑色に染まります。寒い冬を乗り越えた茶の木が一斉に芽吹くのです。
その年に出た新芽を摘んで作るお茶のことを新茶(一番茶)と言います。新茶は、冬の間に蓄えた養分が豊富で深い旨味があり、この時期ならではの味わいと新茶特有の香りも楽しめます。毎年、新茶を楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。
地域の恵みを引き出し、カタチにする4代目
松永緑茶園の代表松永浩二さんは、兎鹿野(とろくの)地区で、国内に5%と非常に希少な玉緑茶(ぐり茶)を作る4代目の茶農家です。先祖代々100年続く茶畑と棚田を受け継ぎ、その魅力を引き出しながら、茶と棚田米づくりをしています。大学卒業後、3年ほど東北で社会人経験をした後に就農した浩二さん。「茶づくりは独自性が出せて面白い」と語ります。
浩二さんは、「畑づくり」と「一次加工(荒茶)」の2つの過程で、「独自の茶づくり」を盛り込むよう心掛けているそうです。「畑づくり」では、土作りや肥料にこだわり、自然仕立てにすることで、茶の木が持つ力を充分に引き出すようにしています。
そして、「一次加工(荒茶)」では、人の感性を大切にしています。
自然の中で育つ茶葉は、毎日状態が変わるため、手に取ったり、香りをかいだりして、茶葉の特性を見極めて、加工の時間や温度を調整。摘みたての茶葉を荒茶にする為に、約10工程の様々な製茶機を通すので、約4時間かかります。茶は摘み取られた瞬間から発酵がはじまるため、松永緑茶園ではなるべく新鮮なうちに荒茶に仕上げ、出荷しているそうです。
荒茶は、その後、お茶屋などで加工が加わり私たちのもとに届くそうですが、松永緑茶園では、この最終的な加工も自社で行うことで独自のおいしさを追求しています。
一期一会を大切に茶の魅力を伝える
「“自ら作り、自ら届ける”という農家の仕事にやりがいを感じています。また、畑の作業や、加工だけに留まらず、県内外のイベントにも積極的に出向き、自ら茶を振る舞いながら魅力を伝えています。茶をあまり飲んだことがない人は、まず私に会いに来てほしい」そう話す浩二さん。茶の魅力を深く知ってもらうため、イベントで初めて会った人に、農業体験に誘うこともしばしば。実際に、泊まり込みで茶畑の体験をされた方もいるそうです。
「広島の辺りから来られたこともあります。様々な出会いが子供たちにも良い経験になっていると思います。」と妻の奈保子さん。ご夫婦ともに、茶を通した一期一会を大切にされている様子が伺えます。
奈保子さんの挑戦
人と話すのが大好きな浩二さんと笑顔が素敵な奈保子さん。お二人は東北で出会い、奈保子さんは農業未経験のまま茶農家に嫁ぎました。嬉野にも初めてやってきたそうですが、“住めば都”と嬉野での生活を楽しまれています。そして、今では「チャノメ」という農業女子グループにも参加し、「嬉野茶」の魅力を自発的に発信しています。
「農業の“手伝い”だけじゃなくて、主体的に何かしたい」そんな思いから、茶農家で働く女性でつくられた「チャノメ」というグループに参加。マルシェへの出店や自治体のプロジェクトにも挑戦し、「嬉野茶」の価値と可能性を広げる活動に取り組んでいます。メンバーは、お互いに良い刺激になっているそうです。現在4名ですが、一緒に活動してくれるメンバーを募集中です。
茶畑で教えてもらった、おいしいお茶の淹れ方
松永緑茶園さんの茶畑の一角で、おいしいお茶の淹れ方を教えていただきましたのでご紹介します。
① 茶葉を量る。 湯呑2杯分/5~7g (ティースプーン2杯ほど)
② 湯呑にお湯を注ぎ、お湯の量を量ると同時にお湯の熱を冷ます。(熱すぎると茶葉もやけどをしてしまうそうです)
③ お湯を急須に戻し、お茶が出るのを待つ。
④ 味と量が均等になるように、少しずつ廻し注ぎをする。(最後の1滴も旨味がたっぷりあるので注ぎきる=ゴールデンドロップと呼ばれています)