家族みんなで励む農漁業
白石町で農業を6代、漁業を3代にわたって続けている森さん一家。肥沃な大地とミネラル豊富な海の恵みを存分に生かし、米・麦・大豆・玉ねぎと海苔をつくっています。
しろいしもりの代表を務める森卓也さんは、そんな家族の姿を見て育ちました。
農業に加えて漁業を始めたのは、有明海で海苔の養殖をできる環境が整った黎明期。「当時は周りの皆さんが一斉に海苔づくりを始めたそうです。海が好きな僕の祖父も、それにならって始めました」と、卓也さんは海苔養殖の原点を話してくれました。
農業と漁業の二足のわらじ。特に秋口から冬場は多忙を極め、米を収穫しながら海苔の支柱を建て、海苔の収穫期には麦まきや玉ねぎの定植も並行して行うそうです。
兄弟で力を合わせ理想の形へ
農漁業を生業にしていた家族の姿を見つつも、卓也さんは夢であった自衛隊の道に進み、家業は弟の慎二さんが受け継ぎました。
家に戻ったのは10年前の2013年。「自衛隊での活動も充実していましたが、東日本大震災の経験から食の大切さを痛感しましたし、何より跡を継いだ弟がとても輝いて見えたので、農漁業家という形で人や社会の役に立ちたいと思うようになりました。また、一度離れたからこそ、ふるさとである白石の素晴らしさを再発見できたので、生産者の立場からもっと広めたかったんです」と当時を振り返ります。
農漁業の先輩である祖父や慎二さんたち家族と力を合わせて、卓也さんはゼロからスタート。特に慎二さんとは相談し合いながら、二人三脚で励んできました。
「農業も漁業も自然が相手なので、毎年勉強しながら作業しています。例えば海苔は最初の2〜3年は全く採れずに悩みましたが、研究熱心な弟が周りの人にアドバイスをもらって改善されていきました。どんどんコツが掴めてきて、結構面白いんです」と卓也さん。失敗を糧に、兄弟を中心に農漁業を軌道に乗せてきました。
「肥料をやるタイミングなど家族や地元の先輩にアドバイスをもらっています。チームのように、みんなで白石を盛り上げていこうという感じがあるんです」と稲刈りに汗を流す卓也さん。今では主に卓也さんが農業、慎二さんが漁業と役割分担しつつ、互いに協力し合っておいしい農海産物を届けています。
ブランド「しろいしもり」に込めた思い
農漁業に取り組む中で「どんな人が食べてくれているのだろう?」と思い始めた卓也さん。いつしか漠然と「一から作った食べ物を提供したい」という夢を描くようになりました。
転機は友人から誘われ、イベントに出店したこと。まずはシンプルな御結びを販売してみたところ、大好評を博しました。「お子さんが100円玉を握りしめて、おいしかったと言いながら何度もおかわりを買いに来てくれたんです。そういう姿を直に見られたのは新鮮でしたし、本当にうれしかったですね」。
イベントを機に6次産業化を支援する県の事業に応募。着実に歩を進め、縁あって出会ったデザイナーさんと話し合いを重ねた結果、単に直売するのではなく、ブランドとして大切に育てていくことに決めました。
こうして誕生したのが、森さん一家のブランド「しろいしもり」です。 “GOOD FARMER AND GOOD NEIGHBOR”。「食べることと生産することが隣り合う仲間のように繋がっている」をコンセプトにしています。ポップアップストアとして各地での出店を経て、2022年8月、念願の常設店舗を佐賀市でオープンしました。
丁寧に育てたお米と海苔が味わえる「御結び」
ツヤツヤのごはんをふんわり結び、最後は別添えの海苔を自分で巻いてからいただく、しろいしもりの御結び。素材の一つ一つが輝きを放つ、こだわりの逸品です。
御結びという呼び方は、昔の農作業で助け合う慣行「結(ゆい)」や、生産者と消費者との結びつきなどから着想を得たもの。「誰がつくっているのかが見える御結びを届けたかったんです」と卓也さんは瞳を輝かせます。
お米は森家で生産する優しい風味の「ひのひかり」とモチッとした食感が楽しめる「さがびより」を独自にブレンド。テイクアウトだからこそ、冷めた時の味わいを考えて配合されており、白石産ならではのお米の甘さが感じられます。 海苔は初摘のものを贅沢に使用し、風味やパリッとした食感を損なわないよう別添えに。3枚入れることで、海苔だけを味わったり一緒に食べる人と分け合ったりできると喜ばれています。
卓也さんは「海苔を巻いた状態で提供したこともありましたが、自分が届けたいものとは違っていて。最後にお客様の手で仕上げてもらいたいという思いもあったので、別添えにしました」と、自身が届けたい形からブレないよう細やかに工夫を凝らしています。
御結びを通して旬を味わう
しろいしもりの店舗では、定番8種類+季節限定2種類の御結びをはじめ、旬の野菜がたっぷり入ったスープや丼物が購入可能。卓也さんが信頼する農家さんなどから仕入れた食材なので、おいしさもひとしおです。
季節限定商品は、スタッフみんなで話し合いながら考案。季節や味の強さ・優しさなど、さまざまな面から検討を重ねます。
さらに、御結び2種類に季節のスープがつくランチセットも用意。「まずは家族の思いが一つになった基本の御結びを食べていただきたいので、御結び2種類のうち、1つは海苔とお米の味をシンプルに味わえるしおの御結びにしました」。
お米や海苔も販売されており、御結びが気に入った方にはもちろん、動物たちが描かれたかわいらしいパッケージは贈答用にも喜ばれています。
生産者として変わらずにおいしいものを届ける
卓也さん自ら店に立つ日も増え、生産者に会える店としても人気のしろいしもり。常連さんから「できはどうですか?」と尋ねられるなど、お互い交流を楽しむ時間も生まれました。多くの方がその評判を聞きつけて来店し、中には県外から足を運ぶ方もいらっしゃるそうです。
「お客様の顔を見られるようになって、生産者としてやりがいがより大きくなりました。これからは御結びのほか熱意ある人が手掛けたお土産なんかも置いて、アンテナショップみたいにしていきたいなと構想中です」と展望を語る卓也さん。
より大きな夢を抱きながら、今日もおいしい御結びに思いを込めて届けます。