甘夏を呼子の名物に
呼子といえば“イカ”が有名ですが、呼子大橋がかかった平成元年、この地に“イカ”だけじゃない特産品をつくろうと決意した一人の女性がいました。その人が、「甘夏かあちゃん」こと、山口めぐみさんです。
玄界灘に浮かぶ「加部島(唐津市呼子町)」は、昔から温暖な気候を活かした甘夏の生産が盛んです。この島の甘夏農家で生まれ育っためぐみさんは、夫の初さんとともに、呼子大橋がかかるという一大ニュースを好機ととらえ、呼子に“イカ”以外の特産品をつくることを決意。島に甘夏の加工所をつくり、「呼子夢甘夏ゼリー」の生産を始めました。
当時はまだ6次産業化という言葉が浸透していない時代でしたが、傷や大きさが理由で販売できない甘夏を活かす方法を模索するなかで、ゼリーの開発に着手。特産品をつくると決意はしたものの、1年目は思うように売れないこともあったそうです。しかし、「甘夏のおいしさを、余すところなく伝えたい!」というめぐみさんと、栽培を担当する初さんの熱意は徐々に実を結び、「おいしい」という口コミが生まれ、販売が6年目を迎える頃には、その噂は全国へ広がりました。今や、雑誌など数々のメディアの取材を受ける存在となり、平成18年には「夏のお取り寄せ決定版・日本一の手みやげグランプリ」で堂々第2位にも輝くなど、その人気は確固たるものとなりました。
自然に近い状態で育てる
「甘夏かあちゃん」の農園の広さは約3.5ヘクタール。山口さん夫婦は、ここで有機質肥料での甘夏の栽培に励んでいます。化学肥料の使用は必要最低限に抑え、微生物の働きを活性化することで健康的な土壌をつくり、安心、安全でおいしい甘夏を生産し続けています。
「春の草は味方だから刈りません。草の根は雨が降った時に土壌が流れるのを防いでくれますし、草の葉は暑さが厳しい時に地面に日影をつくり、微生物を守ってくれているんですよ。」と初さん。平成20年度の全国環境保全型農業推進コンクールで優秀賞も受賞しました。
甘夏の皮が柔らかいワケ
「甘夏かあちゃん」の甘夏の皮は手でも剥くことができます。「農薬を極力使っていないので、皮が薄くてやわらかいのが特徴です。」と初さんは、もぎたての甘夏をふるまってくれました。爽やかな香りと、はじける粒の食感。自然に近い状態でのびのびと育てられた甘夏は、それを食べる人の体にも優しいそうです。
おいしさを引き立てる甘夏の香り
「呼子夢甘夏ゼリー」は、甘夏の皮が丸ごと器として使われているのが特徴です。これには、見た目のインパクトだけではない理由があります。「甘夏の皮はとても良い香りがします。これがおいしさの秘訣。一度、プラスチックの容器で甘夏ゼリーを作ってみたことがありますが、おいしさが全く違いました。」と初さん。皮で作られた器は、甘夏独特のほろ苦さと果実の自然の甘みが絶妙なゼリーの味を引き立てているのです。
実は、このアイデアは初さんが収穫の際、甘夏を落としてしまった時に思い浮かんだそうです。「甘夏が地面に落ちた瞬間、石にぶつかって、香りがはじけたんです。辺り一面に甘夏の良い香りが、ふわーーっと漂ってきて、この香りを多くの人に届けたいと思いました。」と笑顔で話す初さん。「呼子夢甘夏ゼリー」には、この香りが欠かせないのです。
「呼子夢甘夏ゼリー」のおすすめの食べ方
「呼子夢甘夏ゼリー」は、二つに切って食べるのがおすすめです。半分に切ることで、甘夏の香りがさらに引き立つので、まずはこの自然の芳香を味わってから食べるのが堪能するポイントです。
そして、食べ終わった後も、この皮の器は活用ができます。化学肥料を極限まで抑え、食の安全にこだわって栽培されているので、甘夏ピールやマーマレードの材料として安心して食べられるのです。
受け継ぐ者とともに未来へ進む
「甘夏かあちゃん」には、イートインスペースが併設されており、出来立ての「呼子夢甘夏ゼリー」が味わえます。また、令和5年5月から新しい試みとして、甘夏を使ったジェラートのイートインでの販売をスタート。このジェラートはお孫さんが開発したものであり、呼子の名物「甘夏」の美味しさは、次の世代にも受け継がれているのです。