寒暖差が生み出す濃厚な甘み
ひんやりとした涼しい風が吹き抜ける三瀬高原。その標高は450mで、なんと長野県と同じ気候とのこと。その寒暖差を生かし、40年以上にわたりリンゴの観光農園を営んでいるのが「まるじゅんリンゴ園」です。
九州では珍しいリンゴ狩りが楽しめるということで、3代目の小副川高浩さんが営む「まるじゅんリンゴ園」には毎年多くのお客さんが訪れます。その始まりは高浩さんの祖父・純(すなお)さんが、昭和52年に約10aの小さな畑に数十本のリンゴの木を植えたことにさかのぼります。
「リンゴは木を植えて実がなりだすのに6〜7年かかりますが、最初は育て方も手入れの方法も全く分からず、リンゴのような実がなった程度で全然美味しくなかったそうです。他県に視察に行き、試行錯誤を重ねて少しずつリンゴらしくなり、私が生まれた昭和57年に観光農園をオープンしました。珍しさに足を運んでくださったお客様のおかげで今があります」と話します。
技術の上達に伴って徐々に面積を広げ、今では総面積1.5haの広大な敷地に約20種類350本の木が植えられています。
高浩さんは「温暖な気候だからこそ、より濃厚な味わいが楽しめます」と真っ赤に色づいたリンゴを見つめながら話します。
もぎたてを丸かじりで
まるじゅんリンゴ園では自分でもぎ取ったリンゴを、皮ごとがぶりと食べることができます。シャクッという心地よい歯応えとともに甘い果汁がジュワッと広がります。リンゴ狩り体験では、リンゴが食べ放題なのでお腹いっぱい味わえます。
皮ごと食べられる理由は、リンゴ全てに袋掛けを行い農薬や虫が直接触れないようにしているから。食べ頃に袋をはがしお客様が楽しめるようにしています。
憧れの祖父の背を追いかけて
おじいちゃん子だったという高浩さんは、幼い時から祖父の背中を追いかけ、リンゴ栽培も手伝ってきました。
「大好きな祖父のリンゴ農園を継ぐのはすごく自然なことで、小学5年生頃には”じいちゃんのあとを継ぐ!”と家族にも宣言していました」と振り返ります。
農業系の高校に進学し、リンゴ農家への道を真っ直ぐに進んできた高浩さんですが、いざ就農することになったとき、両親から猛反対を受けます。
「大変だからやめなさい、と強く言われたのですが、何とかなるだろうと気楽に考えていました。実際に就農してみると、観光農園の知名度が低く、天気が悪ければお客さんは1組も来ない。せっかく実をつけても台風の影響で枝が折れたり、実が落ちたりして売り物にならない。厳しさを実感しました」。
美味しさを濃縮した生搾りジュース
苦境にある高浩さんの様子を知って、三瀬の先輩たちが「リンゴの生搾りジュース」を出すことを提案。イベントなどに出店したところ反響がよく、そこから体験に訪れる人も増えてきました。
今では名物ともなっている「リンゴの生搾りジュース」は新鮮なリンゴを1個半も贅沢に使い、ゆっくりと搾ります。実際にいただいてみると、甘い香りがふわっと広がり、濃厚な甘さに驚きです。
「あまりの甘さにリンゴの他に何か入れているんですか?と聞かれますが、リンゴだけです。皮付きで丸ごと潰すからこそ、美味しさも栄養もしっかり入っています。熟し具合や品種がどんどん変わっていくので毎週飲みに来られるお客様もいらっしゃいます。ぜひ味の変化を楽しみに飲み比べに来てください」と笑顔が輝きます。またお客様に喜んでいただきたいからと、1杯100円という良心的なお値段で販売されています。
夫婦、二人三脚で新たな挑戦
さらに2008年に三瀬と福岡を結ぶ「三瀬ループ橋」が開通したことで、いろいろなメディアで紹介され、多くの人で賑わうようになりました。何より、農家育ちのあゆみさんと結婚したことで大きな転換期を迎えます。
以前は落下したリンゴは廃棄していましたが、あゆみさんの提案で「アップルパイ」や「リンゴの生キャラメル」など手造りお菓子に挑戦し、リンゴを廃棄することはほとんどなくなりました。お土産用に購入する方やお菓子を目当てに立ち寄るお客様が増え、一番人気の「アップルパイ」は早々に完売するほど。
他にもリンゴジャムや8年ほどかけてようやく納得の味になったという生キャラメルも人気です。
「2人ともお菓子作りは初心者だったので、講師の方に教えていただき腕を磨いてきました。妻の支えがあってこそ、ここまでこられたと思います」と一番の味方であり、戦友とも言えるあゆみさんへの感謝の思いを話してくれました。
家族みんなで美味しいリンゴを育てる
リンゴの収穫時期は8月下旬から11月上旬の約2ヶ月半。収穫が終わるとまずはリンゴたちへのお礼を込めてお礼肥を撒きます。その際、みつせ鶏を育てている先輩から分けてもらった栄養たっぷりの鶏糞を使用しています。鶏糞を使用するようになり、さらに葉が青々となりました。
冬になると剪定を行い、4月には菜種油の肥料を撒き、4月下旬には摘花を行います。1つの芽から5つ花が咲くので中心の1つだけ残してハサミで落とす「一輪摘花」を行います。さらに5月になると選別して実を落とす「摘果」を経て、6月上旬から袋掛けをして成長を見守ります。
園では約10万個のリンゴがなりますが、摘花や摘果で落とすのはなんとその50倍の量。高所での作業になるため、登って降りての繰り返しはかなりの体力勝負です。機械化も進んだとはいえ、手作業が多い栽培を支えているのが、あゆみさんをはじめ、かつて親心で反対したご両親、そしてかわいいお子さんたちです。
台風の影響など自然相手の栽培は収穫を迎えるまで気が抜けませんが、三瀬の気候と一家の努力で毎年、美味しいリンゴが育つようになりました。
「祖父の代から通い〝美味しくなったね〟と声をかけてくださるお客様もいて、本当にありがたいです。観光農園だからこそお客様と直接お話しできるのが良いですね。〝美味しい〟の一言が励みになって頑張れます」と笑顔を輝かせます。