脊振の山あいでのびのび育む
佐賀県と福岡県の県境にそびえる、標高1,053mの脊振山。「本間農園」は豊かな緑に囲まれ、肥沃な大地に恵まれたこの山間部で、平飼いの養鶏場を営んでいます。
代表の本間昭久さんは栃木県出身。日本各地で畜産や養鶏に携わってきました。長崎県出身の妻・綾さんも牛や豚を飼育する畜産業の経験者です。
そんな2人は2003年に、昭久さんの仕事が縁で脊振へと移り住みました。
「佐賀県は夫婦ともに地元ではなく、しかも山間部。今となっては、よく一歩踏み出せたなと思いますね」と、当時を振り返る2人。穏やかな日の光と川のせせらぎ、吹き抜ける風が包み込む脊振がとてもお気に入りだとほほ笑みます。
夫婦で足並みを揃え、養鶏の世界へ
脊振移住から5年後の2008年に養鶏を始めた本間さんご夫妻。当初は昭久さんが会社勤めだったこともあり、主に綾さんが飼育を担っていました。
養鶏は未経験だった綾さんは、経験者である昭久さんや養鶏のプロのアドバイスを受けて試行錯誤。3人の子育て中でもあり「人の子育ては鶏の飼育にも通じるところもある」と、愛情を込めて養鶏に臨んできました。
中でも一番大切なのは、夫婦での意見のすり合わせだと綾さん。「2人が納得する方法で飼育することが欠かせませんでした」。
夫婦それぞれの思いを尊重し合うスタイルで、100羽から200羽、300羽と数を増やしていき、2013年には昭久さんも養鶏に専念。独立就農し、今では2,000羽の鶏が鶏舎で元気に過ごしています。
しあわせな鶏を育てる
本間農園と多くの大規模養鶏場とで大きく違うのは、平飼いであることと、小さなヒヨコ・初生雛から育てること。 「鶏のしあわせ無くして、しあわせな卵は得られない」という考えを一貫して持ち、鶏が幸福な一生を過ごせるよう、平飼いをし、自然に近い形で養鶏を行い、有精卵を出荷しています。
しあわせな鶏の暮らしをつくるのは、ヒヨコを迎える前から。堆肥とワラを幾層にも重ね、発酵する熱で温めてヒヨコの保温箱を整えます。餌と水をあえて遠くに置き、運動量を増やす工夫も。おかげで運動量が増え、筋肉がしっかりついた鶏に成長します。
成長に合わせて与えられる餌は、繊維の多い草や脊振のミネラルたっぷりの赤土、地元産を中心とした独自配合の米ぬか・パン粉・おから・飼料用米など。
実は歯がない鶏は胃腸の筋繊維ですりつぶすようにして食べるので、食事からも筋肉を鍛えられるようになっています。
生まれてから120日ほど経つと卵を産めるようになりますが、本間農園では「もう少し体が大きく丈夫になってから産めるように」と、あえて栄養の少ないもみがらなどを餌に加え、さらに1か月ほど成長させます。
「丈夫に産めるようになったら一気にタンパク源が豊富な餌に切り替えます。難しい技術ですが、目が行き届く規模だからこそできることですね」と昭久さん。 こうして鶏は手間暇かけて穏やかに育まれ、しあわせな卵を産むようになります。
割って感動!レモンイエローに輝く卵
のびのび育った鶏が産む有精卵「ほんまの卵」は、割った瞬間から普段目にする卵とは違う感動を得られます。
着色する餌を与えていないので、黄身は自然のままのレモンイエロー。白身もプリッと張っていて抜群の弾力を誇ります。
また、葉っぱをたくさん食べて育っているので、優しい味わいで臭みがないのも特徴。生卵を食べられなかったお子さんも「ほんまの卵」なら食べられたそうです。
見た目よし、味よし、そして安心安全の「ほんまの卵」。
綾さんが地域の方やママ友たちに配って販路を開拓していった時代から口コミを中心にどんどん広まり、たくさんのファンが卵を買いに訪れます。
ほっと温かいおひさまスイーツ
お菓子工房「ほんまの小窓」には、こだわりの卵をふんだんに使った綾さんの手作りスイーツが並んでいます。もともとは3人の子どもたちのおやつ用につくっていましたが、お客さまからの強いご要望に応えて販売したところ大人気に。
おなじみの絵本のレシピをもとにした「おひさまケーキ」は、1箱につきなんと4.5個もの「ほんまの卵」を使用。ふわしゅわ食感に焼き上げられ、たまらないおいしさです。
カラメルソースなしで甘さ控えめの「おひさまプリン」にもたっぷり「ほんまの卵」を使用。さらに脊振高原のミルン牧場とも協力し、ノンホモ・低温殺菌の極上ミルクも使っています。
商品名の「おひさま」には、キラキラと優しく照らすおひさまのように、食べた人の心を照らし、温めたいという綾さんの思いが込められています。
季節ごとにブルーベリーや栗のスイーツも販売され、おひさまケーキ・プリンとともに好評です。
命に感謝を込めたソーセージ
さらに、採卵期間を終えた産卵鶏は一般的には価値のないものとされていますが、本間農園ではたくさん卵を産んでくれた親鶏に感謝の気持ちを込めて、親鶏肉100%の「ありがとウインナー」「ありがとフランクフルト」として販売しています。
昭久さんは「ヒヨコから大切に育て、約1年半卵を産んでくれた親鶏です。感謝の気持ちを込めて徹底的にこだわって作りました。しっかりと体を鍛えているので、筋肉質で食べ応えがあり、炭火で焼くとよりおいしいんです」と最後まで深い愛情で鶏たちに接しています。
卵にも脊振にも付加価値を
脊振で「ほんまの卵」を届けるだけでなく、農業体験をしながら滞在できる「ファームステイ」にも取り組んでいる本間農園。今後は海外からのファームステイも積極的に受け入れ、脊振の子どもたちが国際交流できるようにしたいそうです。
昭久さんは「卵に付加価値をつける養鶏をしているからこそ、命のワークショップや参加型稲刈りなどもできます。でも一過性のものではなく、脊振に根差したにぎわいづくりをもっともっとやっていきたいんです」と、近い将来には農家レストランの開店も構想中。
しあわせな鶏が暮らす脊振の山あいで、大きな夢が膨らんでいます。